がん治療を始めるにあたり、私が向き合わなければならなかった問題のひとつが、「精子保存」についてでした。
これは、特に若くしてがんを経験する人なら、必ず直面する可能性がある大切な選択です。
主治医の先生との最初の説明の中で、その話が出ました。
「白血病の治療に使う抗がん剤は、がん細胞を攻撃してくれる一方で、正常な細胞にもダメージを与えます。
その影響で、将来的に生殖機能が失われる可能性があります」
とても穏やかな声で、しかし、重みのある言葉でした。
男性の場合、抗がん剤の影響で精子をつくる機能が大きく損なわれ、不妊になる可能性があります。
女性であれば卵巣機能や卵子が影響を受けることになります。
だからこそ、治療を始める前に「保存するかどうか」を決断する必要があるのです。
治療が優先であることはわかっていたものの、夫婦としての未来についても考える必要がありました。
私の場合は、
実は、白血病になる以前から、妻と「子どもをどうするか」について考えたことがあり、
その中で、「2人で生きていく人生も悪くないよね」と話していたことがありました。
だからこそ、治療を最優先する決断は、それほど時間をかけずに出すことができました。
最終的に私たちは、「まずは治療に集中しよう」と決め、
1回目の治療が終わったあと、一時退院の期間中に保存に行くという選択をしました。
ただ、やはりというべきか、1回目の治療終了後に、精子保存のためにクリニックを訪れたとき、
医師から伝えられたのは、すでに活動している精子が“ほぼゼロ”だったという現実でした。
1回目の抗がん剤投与を受けたあとのタイミングだったため、
身体へのダメージがすでに大きく出ていたのです。
少量ながら、凍結保存できた分もありましたが、
改めて、抗がん剤の威力を思い知りました。
この経験から、これだけは強く伝えたいと思います。
もし、これから治療に入る段階で、少しでも将来子どもが欲しいという思いがあるなら、
迷わず、治療前に精子や卵子の保存を検討してください。
これは、「命を救う治療」とは別の、“未来を守るための治療”だと思うのです。
治療のことだけで頭がいっぱいになってしまいがちだけれど、
がんを乗り越えたその先に、どんな未来を描くか──それもまた、自分の人生の一部です。
同じような状況にいる誰かに、少しでも届けばと思い、私はこの経験を記録に残します。
コメント